夏目血風録

第31話

2013年12月9日(月) 掲載全32話中 31話目

前回は11月26日10:01参照

「ねぇ、最近どうしちゃったの…?」
それは同級生の瞳からのメールだった。

「先生や友達も心配してるよ…。」
激戦区と出会ってから俺が学校に行くことはなくなっていた…。

2007年、春。
いよいよ4号機が撤去される時期が迫っていた。
続々と導入される5号機。移りゆく時代の中で俺は幼馴染みのエビス丸と共にパチスロを打ち続けていた。
俺達がメインに立ち回っていたのは神奈川県のとある地域。
そこには朝イチ高設定確定台、激アツイベントが存在するほか、大きな特徴があった。
それは、新台初日は多くの店が全台設定6スタートという状況だった。
勝つ為の条件は簡単、朝の抽選で新台確保券を引くこと。
そこさえ突破できれば新台の中から好きな台を選び、15時開放のそれを打つことができる。

俺とエビス丸は気合いを入れて参加するも、当然簡単に打つことはできなかった。
前回のカイジの高設定確定台の件をきっかけに、この地域は軍団やノリ打ちをしている打ち手がかなり多いことに気付かされた。

中でも目立っていたグループは2つ。
1つは、この地域で最大規模の軍団「権代軍団」。
強面の若者中心でリーダーがガチンコファイトクラブの権代に似ていたので、そう呼ぶ事にした。打ち子、引き子合わせると軽く30人近くいるように見えた。マナーも決して良いとは言えず、まさにこの地域を占めている軍団だった。
2つ目は地域柄なのか「外国人の軍団」。
権代軍団クラスの構成員を誇る勢力で、実際には数人のグループが何組もある様に見えた。しかし、仲間内で抽選券を共有していたので実質一つの軍団のようなものだった。常連のいるシマに着いて行き、全台設定6のシマを狙う。朝の抽選で二度引き三度引きは当たり前だった。

そして、両グループともホームレスを抽選要員に使い始めるなど、その勢力争いは激化していた。

昼や夕方に店側が高設定確定札を差しても、それらの軍団員が巡回しているため、根こそぎ確保された。そのため、俺達が高設定確定台に座れる事はほぼなかった。

全体的に出玉感がある地域とはいえ、適当に打って勝てるほど甘くはない。
しかし、ある日…。
エビス丸「あっ!」
夏目「おおお!!!」
なんと、ヱビス丸が新台確保券を引き当てたのだ!!

その台はアラジンエボリューション。
検定の切れた4号機の穴を埋めるべく、このアラエボをはじめ、俺の空や夢夢ワールドといった、ギリギリまで設置できる4号機を新台として改めて導入する店が多く見られた。

俺は新台の確保はできなかったが、エビス丸と一緒にいれば打たせてもらえるかもしれないし、金を持ってない事も知っていたので、もしかしたら大好きなアラエボを俺に譲ってくれるかもと思い、行動を共にすることにした。

新台は15時スタート。
それまで近くのスタバで時間を潰すことにした。
そこで色々な話をしたが、中でも驚いたのがエビス丸は授業をサボり過ぎて留年していたことだった。それを知った両親が怒り、住んでいた寮ではなく、静岡から神奈川の大学に通学するように言われたそうだ。
正直、俺は彼が留年したことより、貴重な宿がなくなることの方がショックだった。が、聞くところによると、今すぐ退去する訳ではないらしい。
それに加え、今日から静岡に帰るのでしばらく寮を自由に使っていいとのことだった。その代わり、金を貸して欲しいと言う条件付きだったが…。
それでもこの地域に近い拠点が出来たことで、俺のテンションは上がっていた。

そんな話をしているうちに、気が付けば開始時間が迫り、俺達はホールに向かった。

エビス丸の台は内角で、俺はその横に設置してあるパチスロ海物語で暇を潰すことにした。
期待に胸を膨らませ、開放されるまで待っていると…。

「ドンッ!!」
隣のパチスロ海物語から台を強打する音と共に異臭が漂ってきた!
うるせーな! 誰だよ一体!?
そこにはジャンクフードを食べながら、不機嫌そうにパチスロ海物語を打っている男がいた。
こ、こいつ!? 権代軍団の…?
ドンドンッ!!
BIGにも関わらず台パン…、いや、足で台を蹴る男。

なんだよコイツ…! BIGなんだからいいじゃねーかよっ !!

どうやら男は獲得枚数の少ないノーマルBIGにキレているようだった。
おいおい、この横で打たなきゃいけねーのかよ…。
しかし、どうみても喧嘩っ早そうな男。
文句でも言おうものなら殴りかかってきそうな勢いだった。

嫌だな…と思っていると、隣のエビス丸はすでに打ち始めており、強チェリーから演出がざわつき、早くもボーナスが確定していた。
それを見て我に返った。

エビス「こ、これって高確じゃね!?」
エビス丸がそう騒ぎ立てる。
アラエボは打ちこんでいたので、俺もすぐに直撃ではなく高確に移行した事に気づいた。
夏目「こんなにあっさり移行したっけ?」

さらに、「ピッポッパッポ~♪ 」。
なんと、JAC中に高確ロング確定のBGMが流れ出す!
2人「うおおー! マジかよ!!」
高確ロング=爆連のイメージが強かった事もあり、俺達は興奮した。

しかし、あっさりと高確ロング終了。
エビス丸「おい、ふざけんなよっ!!」
設定6は高確ロングが転落しやすい事は知っていたが、さすがに苛立ちを隠せない様子のエビス丸。

その後も高確ロングやショートに移行するのだが、連チャンはせず増える投資。
ただ、こんな簡単に高確に突入するアラエボは2人とも見たことがなかった。
周りを見ても、どの台もコンスタントに高確に突入しているようだが、苦戦している打ち手が多く見えた。
しばらくすると、出ない事に嫌気が差したのか1台が空き台になる。暇だった俺は、すかさず確保した。

夏目「暇だから打とうかな。」
正直、どの台も投資が嵩んでいたので自分も負けるのではないかと迷ったが、普段見たことない挙動なのは確かだった。それに後押しされ打つことにした。

その後、俺とエビス丸はブン回したが、2台とも最後まで出る事はなかった…。

結局負けた。しかし、あの挙動はどう考えても設定6。
エビス丸「てかさ、あんな高確ロングいかなくねっ!?」
夏目「俺もあんなアラエボ打ったことないわ。」
どうやら、設定6を使っているのは事実のようだった。

エビス丸「悪いんだけど、静岡に帰る金ないから貸してくんない?」
夏目「え、また!? 別にいいけど…。多めに返してよ(笑)。」

エビス丸は最近までパチンコ屋のバイトをしていたが、バッくれた事もあり金はほとんどないようだ。さらにパチスロで負ければ当然だろう。

こうして、エビス丸は新幹線の終電で静岡に帰った。
一方俺は、1時間かかる葛西ではなく電車で2分のエビス丸の寮に向かう。
これにより、今まで以上にその地域に入り浸ることになる夏目五郎だった。

…つづく。

出典: パチマガスロマガ「決死のパチスロサバイバル日本縦断編5」内の不定期連載「夏目血風録」(2013年12月9日(月) 掲載)。 本文は当時の掲載どおりで、書き換えていません。