夏目血風録

第29話

2013年11月18日(月) 掲載全32話中 29話目

前回は11月11日23:42参照

中学生の頃、一般人がオーディションに参加する番組が流行っていた。
芸能界には一切興味がなかったが、何故か「自分なら合格できるのではないか」という気持ちが芽生えたのが俳優を目指すきっかけだった。

自分の存在を世間に認めてほしかったのだと思う。
芸能人になれば、それが認められると思っていた。

しかし、東京での現実は残酷だった。

実際に俳優の勉強をすることにより、自分がいかに無力であり、才能もない事を痛感させられた。

そして一番大きかったのは、演技がしたかったからではなく、人に認められたかったから俳優を目指していた事に気づいたことだった。

それからは人前で喜怒哀楽をさらけ出す事自体が苦痛となり、正直急激に演技することに興味がなくなっていった。

さらにパチスロに関して、エビス丸の紹介してくれた地域にかつてない程の魅力を感じ、このチャンスを逃すのは勿体ないと思ったことも大きかった。

ただ一つだけ心に引っかかっている事があった。

それは学校に行かなくなる事により、同じ俳優科の瞳を傷つけてしまうのではないかという心配だった。
自分にとって大切な友人だったから裏切りたくない気持ちがあったのかもしれない。
そんな葛藤があったものの、結局次の日、エビス丸と共にパチンコ屋に並んでいた。
考えた結果、一日学校を休んだところで大丈夫だろうと思ったからだ。

そして、この日からエビス丸が紹介してくれた地域に通い出すようになる。

激戦区という事もあり毎日どの店も出ていた。
新台は全6スタートが当たり前、朝イチ高設定確定台や高設定シマ発表とまさにお祭り状態。

そんな中、俺たちが最初に気になったのが朝イチ高設定確定台だった。
そこは朝から高設定を示唆する札が台に刺さっているという夢の様な光景だった。

当然、俺とエビス丸も狙うことにした。
しかし、毎日抽選を引き、虎視眈々と狙うが、全く台を確保することができなかった。

それもそのはず。
この店には毎日100人近くが並んでいたが、朝イチ高設定確定台は2~3台しかないため、可能性は抽選1ケタ台にほぼ抑えられてしまっていた。

そんなある日、遂にチャンスが舞い降りた!
なんと! 抽選で2番を引いたのだ!!

これで確定台が取れるかもしれない…。

しかし、残念ながら早い番号でも確定台を打てる保障はなかった。
実はこの確定台、厄介な事に店に入るまでは機種、場所共に不明だった。

さらに店は2階と3階(1階はパチンコ)に分かれており、選択肢を間違えれば1番でも確保することはできない。

この日はエビス丸もいなかったので、俺一人で狙いを絞らなければならなかった。
そして傾向や癖もわからず、狙いを絞る事すらできずに入場が始まってしまった。

心拍数が上がり、まるでマラソン大会の前のような気分だった。
とりあえず俺は、入場と共に台を必死に探した!
当然、他の打ち手も我こそはとホール内を駆け巡る。
俺は1番が2階に走ったこともあり、3階に賭ける事にした。

ひたすら札が刺さった台を探す…。
が、見つからない!

後方からもスロッターが迫る中、猛烈に違和感のある「最強」と刺さった一台を発見!
無我夢中になって確保券を台に突き刺す。

横取りさせることを恐れ、下皿にはケータイも入れた。
俺はあまりの喜びと興奮で体が震えていた。

その台は「回胴黙示録カイジ」。
設定6はエクストラ仕様でほぼ292Gを超えない。

しかし、当時の俺は設定6を打ったことなどあるわけもなかった。
というか、この日が初打ちだった。

回胴黙示録カイジはエビス丸が良く打っていたので、確定台を確保した旨を電話で伝えると、「カイジの確定台取れたの!? だったら絶対に粘った方がいい!!」と彼も興奮していた。

こうして人生初の朝イチ高設定確定台を打つことになったのだった。

…つづく。

出典: パチマガスロマガ「決死のパチスロサバイバル日本縦断編5」内の不定期連載「夏目血風録」(2013年11月18日(月) 掲載)。 本文は当時の掲載どおりで、書き換えていません。